NEWS ROOM
2022/04/22
ポーカーを日本の競技シーンへ。
POKER ROOMが向き合う「ポーカーの本当の実力」とは?
POKER ROOM公式Webサイトをご覧の皆さま。
こんにちは、横澤です。
わたし横澤は”世界のヨコサワ”という名前でYouTuberとして活動しております。しかしながら今回は、ポーカープレイヤー”横澤真人”としてROOTS REWARDS Season.1の”TIER MATCH”の設計に携わらせていただきました。
このTIER MATCHを実装するにあたり、僕がポーカープレイヤーとしてこれまで考えてきたことや、POKER ROOM/ROOTSのメンバーが検討してきた長い道のりを理解していただくことで、より楽しくROOTS REWARDS Season.1をプレイしてもらえるのではないかと考え、今回はTIER MATCHの設計思想についてお話させていただきます。
♠ TIER MATCHの基本的な設計思想
“TIER”とは、実力を競う新しいランクシステムで、プレイヤーが所持している”TIER POINT”(TP)によってTIERが決定します。
良い成績を残すとTIERが上がり、悪い成績を残すとTIERが下がるという今までに無いシビアなゲームです。
ポーカーという運の要素が大きいゲームにおいて「一度の優勝」から実力を証明することは出来ません。
運だけではなくスキルの伴った真に強いプレイヤーを決めるために、1回1回の勝敗ではなく参加したゲーム結果全てを評価し、1シーズンを通して競い合うランクシステムとして、TIERは開発されました。
シーズンを戦い抜き上位32名にランクインを果たしたプレイヤーは、シーズン終了時に開催される
“ROOTS HEADS UP TOURNAMENT”への出場権利を獲得します。
ヘッズアップ(1対1のテキサスホールデム)を勝ち抜き、見事優勝したプレイヤーは”ROOTS GLOBAL PLAYERS”にノミネートされ、ROOTSを代表して海外のポーカーシーンで活躍いただくためにPOKER ROOM社がプロデュースします。
TIER MATCHは、勝敗にこだわるプレイヤーが集まる新しいゲームモードです。
プレイヤーは到達TIER別のエントリーTPを消費してゲームに参加し、ゲーム結果に応じてTPを獲得します。
参加人数に応じてトーナメントごとにTPのプールが計算され、最終的な順位に応じて獲得TPが決まります。
順位に応じた獲得TPは、一般的なトーナメントのペイアウトストラクチャーと比べると1位、及びファイナルテーブル付近の配布比重が重いものとなっており、上位に偏った割り振りになっています。
TPの振り分け表は、参加人数に応じて24種類存在します。
おおよそ参加者の上位約50%のTPはプラスとなり、下位約33%の参加TP分がマイナスとなります。
TPプールの総額は参加人数×100tpで計算され、TIER Bでは総TPの50%、TIER Aでは総TPの30%というようにTIERが上がるにつれ、付与されるTPの総数は減少していきます。
※シングルマッチでは参加人数×60tpが総プールとして計算されます。
全てのトーナメントで、リエントリーTPを支払うことで1度までリエントリーすることが可能です。
また、ひとつのトーナメントで上位のTIERに上がる際、必要TPを超えたものは上位TIERの付与TP数に応じて減算されます。
TPに関しての情報は、トーナメントプレイ中にアプリにて常時確認することができます。
他のプレイヤーが敗退するたびにリアルタイムに変わっていくTPをチェックしながらプレイすることでよりスリリングで、戦略的なポーカーを楽しむことが可能となっています。
アプリからはROOTSの全プレイヤーの上位100人のTIERランキングを確認できます。
また、フレンド登録をしているプレイヤー間でのランキングも見れるようになるため、フレンド同士でシーズンを通して競い合うというような楽しみ方も可能になります。
このTIERの設計思想の基盤となっているのが平均順位です。
平均順位という言葉はあまり聞き覚えがない方が多いかもしれませんが、TIERを上げるために最も必要になってくるのがこの平均順位であり、ポーカーの実力を効果的に測るキーポイントだと結論付けています。
私たちは兼ねてからトーナメントの平均順位という指標に着眼していました。
実験的にリリース初期段階ではROOTSのアプリ上でこの指標を確認できていましたが、感覚的に理解しづらい指標であったためこれまで参考にされることはありませんでした。
しかし同時に、開発チームではこの平均順位という指標がプレイヤーの実力を短期的に表す指標であることを確認することができました。
この平均順位という一般的ではない概念が、なぜ最もポーカーの実力を表すのに適切なのかを語るためには、トーナメントでプレイヤー間に最も実力差が出るのは一体どこなのか?を考えることが欠かせません。
♠ ポーカーにおける”実力”とは何なのか?
そもそもポーカーにおける実力とは何でしょうか?
キャッシュゲーム(リングゲーム)であれば、単純にチップを増やすことだけが実力と言えますが、実はトーナメントにおいてはそうではありません。「トーナメントの実力とは何なのか」という事を語るうえで「参加費」と「賞金」という関係は切っても切り離せません。
チップの増減ではなく”支払った参加費よりも得た賞金のほうが多い”という状態が、トーナメントにおけるポーカーの実力を表していると言えます。
つまり、優勝する回数や入賞した回数というのは1つの指標でしかなく「投資に対してリターンをどれだけ得られているか?」ということが最も重要な指標になります。これをROI%と表現します。
実はROOTSでは、RTSという仮想のポイントをベースにこのROI%が計算されています。
それがアプリの戦績画面から確認できる”Win-Rate”です。
アミューズメントポーカーでは参加費と賞金という関係が存在しないため、我々はRTSを媒介としてトーナメントの実力を示す方法を考えてきました。
たとえば「優勝確率」という指標は、トーナメントの実力を表す重要な指標の一つです。
100人参加するトーナメントで平均的なプレイヤーが優勝する確率は当然1%ですが、優秀なプレイヤーは2%-3%の優勝確率があるとされています。
ただし、優勝確率というものは発生頻度が少なすぎるため、試行回数の分母を確保することが難しく、1%の確率で優勝したのか、それとも3%の確率で優勝したのかということを見極めるためには何十回、何百回と優勝したときの試行回数の分母と比較する必要があります。
また、トーナメントに優勝することは全てのチップを自分の手元に集めるということであり、チップの増減(1ハンドあたり何点チップを増やせるか?)を見た時に、ゲームを通してより多くチップを増やしているプレイヤーは優勝確率が高いということを示す何よりの証拠になります。
しかし、トーナメントにはICM※やバブルなどといった”生き残り力”を問う側面もあるため、チップの増減だけでは判断できない能力も実際には存在します。
これらの理由から、一般的にトーナメントの実力はWin-Rate=ROI%で見積もられることがほとんどです。
※ICMとは、Independent Chip Modelの略語で所有しているチップの量、順位が上がる事によって手に入る賞金の上昇を考慮したチップの価値を換算する方法のことを指します。
♠ 試行回数の限界
これらの実力を測る考え方は、一般的には有力な方法ですが試行回数の問題が常に付きまといます。
優勝確率が実力を測るのに適切でない理由が試行回数の確保であるように、ROI%も同様に試行回数が少ない場合、あまり参考にはなりません。
1シーズン(6か月間)のうちにROOTSで5回~20回プレイするとしても、その中でROI%に反映される≒入賞してRTSを獲得する確率は10%~20%程度で、優れたプレイヤーであっても1回~4回しか評価できる指標が得られません。
このROI%を参考にした実力評価基準も、60名のトーナメントをプレイすることを考えると、20回や30回の参加で参考にするには到底適切な数字とは言えません。
♠ バブルで飛んだプレイヤーは本当に弱いのか?
ここで思考実験をしてみましょう。
60人参加で9人から入賞のトーナメントで、惜しくも10位で飛んでしまってリターンを得られなかったプレイヤーAがいたとします。このプレイヤーAはなんと、10回連続でバブルで終了してしまいROI%は-100%となってしまいました。
一方で、あるプレイヤーBは、9回連続で60位で終了しましたが、最後の1回で優勝を果たすことができました。このプレイヤーのROI%は現在のRTSの配布基準によると約+100%程度になります。
この場合、本当に強いのはどちらのプレイヤーでしょうか?
たしかに「バブル」になってしまったプレイヤーAは入賞を意識したプレイができていない可能性があるという点を見ると、実力は十分ではないかもしれませんが、試行回数が10回と少ない中でより長い時間プレイし、多くのハンドをプレイした上で得た平均10位という結果は一度の優勝の価値と比べても、遜色のない結果と言えるのではないでしょうか?
♠ もしも上位66%が入賞するトーナメントが存在したらどうなるのか?
ここで、これまでになかったトーナメントの在り方を考えてみます。
先ほども説明したように60名のプレイヤーが参加するトーナメントは非常に分散が大きく、一般的な上位10%が入賞するトーナメントにおいて、ROI%=50%という脅威の実力を持ったプレイヤーが100人いたとしても、100回トーナメントをプレイした後に100人のうち10人はROI%がマイナスになってしまいます。
※ROI%=50は実践値において、トーナメントプレイヤーの中で最も強いとされうる数値です。
実際に1バイインを$100と仮定した時のシミュレーション結果がこちらです。
Confidence Intervals 70%というのは、同じ実力のプレイヤーが100人いた時に70人はこの収支内に収まるということを意味しています。
※計算元 Tournament Variance Calculator by Primedope.com (2022.04.20)
これに対して、60人のうち40人が入賞するトーナメントがあった場合に、同じ条件のROI%=50%のプレイヤーが100人いた場合はどうなるでしょうか?
この場合、100人のうちROI%がマイナスになるのはたった2名となり98名がプラスとなります。
更には上位10%が入賞のトーナメントの時と比べると全体の収支の分散も小さくなり、より強いプレイヤーが安定して結果を残しやすくなります。
このことから、少ない試行回数でより実力通りに結果を評価するためには上位に入賞したときだけではなく、全ての参加結果の中からより低い順位に対しても評価をしていくことが不可欠であるという結論に至りました。
♠ TIERの重みづけ
これらの平均順位の基本設計思想が決定してから実際のTIERの実装までには、多くの時間とシミュレーションを要しました。基本の設計思想として重要視したのは下記の3点です。
1 少ない参加回数でも得られる進捗感
2 高いTIERではよりシビアな戦いを実現
3 参加回数とTIERが正比例しないような付与TPとエントリーTPのバランス
この3つを同時に達成するTIERの重みづけには、常に試行回数の少なさという壁が立ちはだかりました。
Season.0をプレイしていただいた中でも来場回数の多かった約600名のプレイヤーの全ての成績を基に仮の閾値や計算式を設定して、シミュレーションを回し、結果から数値を微調整するといった作業を繰り返し最終的にSeason.1の実装に使われたTIERの設計バージョンは、なんとver.20にまで及びました。
このver.20を使った来場回数20回〜50回のプレイヤーに対するシミュレーションによると、これらのプレイヤーの最終的なTPの分布図はこのようになります。
来場20回までは低TIERでのプレイ比率が高くなるため、ある程度の相関性を持ちますが20回以上来場した場合の最終的な所持TPは来場回数にほぼ正比例しないことを確認しています。
(50回以上来場いただいたプレイヤーに関しては個人の特定を控えるために掲載を控えております)
♠ レイトレジストと、どう向き合ったか?
これらの平均順位という概念を実力が反映されるランクシステムとして設計する場合に立ちはだかった問題が、レイトレジストという仕組みをどう取り扱うか?ということでした。
ROOTSではお仕事終わりなどの遅い時間からご来場されるお客様も多く、皆さまの日常生活の中で、より多くの方にROOTSを楽しんでいただくためにもレイトレジスト締切時刻を今より早い時刻に設定するというアプローチはできるだけ避けたいと考えていました。
しかし、低い順位で終了することよりも、1つでも高い順位で終了することが利益的なTIER MATCHにおいて、レベル1からプレイしているプレイヤーより、既にプレイヤー数が少ない状態でエントリーしたレイトレジストのプレイヤーの方がTPを稼ぎやすいという問題が発生してしまいます。
この問題を解決するためには、まずレイトレジストすることによる利益がどれくらいあるのか?ということを理解する必要があります。TIERにて採用されているペイアウトストラクチャーとICM=Independent Chip Modelから計算すると、レジスト締切時点で開始スタックを持っている場合の期待値は、レベル1から参加する場合の約1.4倍の価値があるという計算結果になりました。
この利益を減らすために、レイトレジストにペナルティを付けることなども検討しましたが、実際にはやむを得ない事情でレイトレジストするプレイヤーも多くいることや、そもそもプレイできる時間が減ってしまっているプレイヤーに対して更にペナルティを科すことよりもレベル1からプレイしているプレイヤーがバストしてしまい、レジスト締切時点でのチップ価値の上昇の恩恵を受けられないというデメリットを解消するというアプローチを採用しました。
そのアプローチこそが、リエントリーTPをエントリーTPより低く設定するという方法です。
リエントリーの際の消費TPを一律で60%減らすというアプローチを取ることで、平均的な実力を持つプレイヤーであれば、レイトレジストしたプレイヤーよりレベル1からプレイしているプレイヤーの方がやや期待値が高いという設計を実現しました。
もちろん、引き続きエントリーしている他のプレイヤーに対してスキルが劣っているプレイヤーであればレイトレジストした方が得になりますが、スキルエッジが大きいプレイヤーであればあるほどレベル1からプレイしていることによる利益は大きくなります。また、レイトレジストするプレイヤーが一定数より増えた場合、これらの恩恵はそもそも受けられなくなるため、レベル1からプレイしているプレイヤーはより利益的になります。
また、実力を競うTIER MATCHにおいて、スキルエッジをカバーするためにレイトレジストするという戦略やスキルエッジを最大化するためにレベル1からプレイする、というように複数の戦略が存在する仕様は実際の海外のトーナメントでも起こり得る状況のため、より実戦的なポーカーの駆け引きと言えるでしょう。
♠ TIERで実現したいポーカーの未来
今回実装されたSeason.1のTIER MATCHでは、より少ない試行回数で強いプレイヤーを適切に評価できるようになったと同時に、参加回数が多いだけではなく、結果を残し続けている真に強いプレイヤーを決める方法が確立されました。
実はこのSeason.1のTIERの設計では何度も問題にぶつかり、その解決策を探し続けた結果「理想のTIERを設計するには進化の段階を踏まなくてはいけない」ということが分かっており、今回のSeason.1 TIERはまだ完成形ではなく、これから皆様と一緒に創り上げていきたいと考えています。
現在お話できる範囲でいうと、今後より強いプレイヤーが参加しているトーナメントでの獲得TPが増えるように他の参加プレイヤーのTIERを基にTPプールを決めるというロジックを実装予定です。
これはSeason序盤に参加したプレイヤーに対して後半から参加したプレイヤーが、他のプレイヤーのランクが高いためにランクが上がりやすい、といった不公平が起こらないようSeason.2以降での導入を検討しております。
Season.1では、プレイヤーの皆さまにまずTIERの仕組みを理論的、もしくは感覚的に理解していただくことや、今まで上がる一方だったROOTS REWARDSランクに対して、下がることもあるTIERというシビアな世界観を体験していただくこと、その進捗感を楽しんで貰うことに重きを置いたリリースをしました。そして、Season.2以降では、Season.1でその世界を勝ち抜いたプレイヤー達のため、よりシビアで実力が問われるランクシステムや新たなモード、システム改良のアップデートを既に準備しております。
これらの改良点に関しては、実はSeason.1からリリースすることもできましたが、より良いTIERの世界観を作るために、まずはシンプルなTIERの仕組みにすることで、時間の経過ともに完璧なTIERの仕組みを作り上げられると確信しています。
私たち開発チームは、皆様と一緒に世界にまだない究極のポーカースキルのランクシステムを創り上げることができると信じています。
♠ 日本から始まる新たなポーカーの歴史
「ポーカーの実力を証明する方法」というのは、ポーカー界にとっては一種のパンドラの箱であり、あえて触れてはならない領域とされてきました。
一般的には「勝ち負けを重視しないレクリエーショナルプレイヤーと、生活がかかったプロポーカープレイヤーの壁をなるべく見えないようにするにはどうするべきか?」ということが議論されています。
オマハやショートデックなど、より分散が大きく実力が弱い人が実力を実感し辛いゲームが流行するのにも、そういった背景があります。
それはポーカーがギャンブルであり、お金を賭けるゲームであるからに他なりません。むしろ、相手プレイヤーが正しい実力を把握していない方が、こちらの利益になるというようなマネーゲームの側面が少なからずあるからなのです。
そんなゲームだからこそ、海外では「実力を証明しよう」なんて試みは一切されてこなかったわけです。
ROOTSはPOKER FOR EVERYONEというコンセプトでオープンしたポーカールームで、私たちは「ポーカーを楽しみたい人」と「ポーカーに勝ちたい人」どちらにもROOTSを楽しんで欲しいと考え、そのためにできることを考えてきました。
しかし、実際にプロポーカープレイヤーとしてポーカーを9年プレイしている自分ですらポーカーをプレイするときに「楽しんでプレイしているとき」と「勝ちたくてプレイしているとき」という2つのモードが自分の中にあることに気付きました。ポーカーにはコミュニケーションツールとしての面白さと、マインドスポーツとしての競技性があるということです。そして後者を楽しむプレイヤーには必ず「より強いプレイヤーと戦いたい」という欲求があります。
よく「アミューズメントはお金がかかっていないからガチじゃない」なんて言葉を耳にすることがあります。
しかし、本当にそうなのでしょうか?
「より強いプレイヤーと戦う」ということは、お金を賭けないエンターテインメントのポーカーだからこそ突き詰められる領域なのではないか、と私たちは考えています。
そして、POKER FOR EVERYONEを掲げるROOTSだからこそ、そんな”より強いプレイヤーと戦いたいアナタ”のためのTIER MATCHを導入することができたと考えています。
ポーカーの競技性や、よりシビアな勝ち負けの部分を切り取ったポーカーというのは、実は世界的に見てもほとんど存在しませんでした。このTIERというポーカースキルのランクシステムは、ほぼ世界で初めての試みと言えるほどの挑戦で、日本から始まる新たなポーカーの文化と言っても過言ではないでしょう。
ROOTS、そしてプレイヤーの皆さまは”新たなポーカーの歴史の始まり”に立ち会っているのかもしれません。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
このTIERという新たな試みを通して、皆さまと一緒に新たなポーカーの可能性を創り上げることができれば
それが私たちにとっての、この上ない喜びです。
横澤 真人